白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 アルヴスにいた頃にも娼館の娘や公国の貴族令嬢などを見ていたが、ローザベルのような娘は見たことがなかった。ウィルバーは彼女を前に、緊張で硬直してしまう。

 王はウィルバーとローザベルに、八年後の春、結婚式を挙げるよう命令した。体のいい政略結婚の駒として呼び寄せられたのだなと理解したウィルバーだったが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
 相変わらず緊張しつづけていたウィルバーを見て、ローザベルは自分からワンピースの裾を両手に持って、ぺこりと淑女の礼をする。

「ウィルバーさま。ローザベルが、あなたのお嫁さんになります……よろしくお願いしますね」
「あ……あぁ」

 婚約のための顔合わせはほんの一瞬。
 けれど、ウィルバーが彼女の虜になるには充分な時間だった。
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