白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
ローザベルと王城の魔術師たちと決戦準備

+ 1 +




 スプレンデンス城、というものものしい名称は初代国王マーマデュークが宮廷魔術師アイーダに占わせて決めたものだ。アルヴスから入ってきたカップ咲きのピンク色の薔薇の品種名でもあり、花の離宮に植えられたクリームイエローのアプリコット・ムーン同様城の周辺にこれでもかと植えられている。
 なかでも匍匐性のエアシャー・スプレンデンスの苗の成長が著しく、グラウンドカバーとしての役目を担っており、春になるとピンクがかった白い花を咲かせて訪れるひとびとを楽しませてくれる。
 花残月の朔日は四季咲きだけではない、一季咲きの薔薇も盛りを迎えている。
 手のひらサイズの中輪の桃色の薔薇に出迎えられて、ローザベルは思わず頬を緩めていた。

 ――いけないいけない、今日は王城に遊びに来たわけじゃないのに!

 今夜、ローザベルは怪盗アプリコット・ムーンになって、花の離宮の神殿跡地にある聖棺の“稀なる石”を……“稀なる石”の魔力を放出させる。
 あのおおきさの“稀なる石”は、昨晩ウィルバーが口にしていた通り、持ち帰ることは不可能だ。だとすれば、憲兵団長としての任務についている彼を欺いて、大魔法をつかうしかない。
< 80 / 315 >

この作品をシェア

pagetop