白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 レースのテーブルクロスの上にはアイボリーブルーの上質な食器が並べられており、そこには侍女が用意したオレンジシフォンケーキがたっぷりのクリームと一緒に乗っている。
 卵をたっぷり使ったシフォンケーキがさいきんのダドリーのお気に入りで、侍女たちがこぞってアレンジしたケーキを作ってくるのだとか。毎日のように食べていたら太っちゃうわね、とオリヴィアは苦笑していたが、彼女のプロポーションは九歳の男の子の母親とは思えないほど抜群だ。
 はじめ、憲兵団は怪盗アプリコット・ムーンのことを豊満な胸を持つ美人だと評価していた。そう、目の前にいるオリヴィアみたいな……

 だけど現実は小振りな胸がコンプレックスのローザベルがぴったりとした黒装束と顔を隠す黒ヴェールで誤魔化しているだけのこと。怪盗アプリコット・ムーンの正体を知るダドリーはお喋りな母親に辟易しているようで、シフォンケーキを食べ終えてから逃げるように自室へこもってしまった。
 とはいえ、「夜になったらお姉ちゃんに勉強教えてもらうんだ!」と言うアリバイ工作だけはちゃっかり残していったが。

「ダドリーのローザベル好きにも困ったものね」
「大丈夫ですよ。おまかせくださいな」

 うふふ、と美味しいシフォンケーキを味わいながら、ローザベルは頷く。
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