あなたとしゃぼん玉

罪と罰

2月4日。
この日、わたしはひとりで産婦人科に向かった。

1月に再就職したばかりだったため、環境に体が合ってなくてただ体調が悪いんだろうと思っていた。

昨日ルナルナのアプリを開いた。
気づいたら、87日間生理が来ていなかった。
こんなにも長い生理不順は3年に1回くらいのペースであったから、ひとりで産婦人科に行くのは慣れていた。

最近、日中眠くてたまらない。
転職した事務の仕事が座ってばかりの仕事だからなんだと思っていた。

今まで仕事中に寝ることなんて無かったのに。
そして気づいたらずっと続けていたコンビニ食を一切やめ、食材や果物を買い、自分で料理をしていた。
「…妊娠してなかったら。今月ちゃんと生理が来たら」
あの人との関係を終わらせよう。
電話番号を変えて、LINEを消して、一人暮らしのあの家を出て、別のところに住み直そう。
今日の結果を聞いて、全て終わらせようと思っていた矢先の出来事だった。


「……石田さん…石田朝日さん」
「はい」
「少しいいですか?中の待合にどうぞ」
1時間半くらいして呼ばれたわたしは診察室前の待合席に案内される。
「石田さん、妊娠されてませんか?」
「………え、いえ」
「…とりあえず、もうすぐ先生のところへご案内できますので」
「はい………」
心臓がバクバクした。
診察室に案内され、履いていたスカートと下着を脱いで診察台に上がった。
カーテン越しの先生は男性だったが「こんにちは。安心してね」と声をかけてもらえた。
「ちょっと冷たいかもねー」
そう言って、腟専用の細長い棒状の形をしたプローブと呼ばれるセンサーを、膣内に挿入して検査される。

冷たいものが膣内に入ってくる。
きもちわるい。
いつも慣れないこの感覚に早く終われと願った。
わたしの視線の先に白黒の映像で子宮の様子を見ることができた。
この光景は前に見たことがなかった。
黒い背景に本当にうっすらと小さな白い点がある。
前には見たことがない映像。
心の中で「やばいかも」と思った。


「妊娠してるね。8週ってところかな」


その言葉に血の気が引いた。

わたしが?

「とりあえず着替えて、右の部屋に来てね」
「はい」
足速に着替えて、隣の部屋に入る。
先生たちの目が怖くて顔を上げることが出来なかった。
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