木沢彰吾、禁煙を決意する 『恋に異例はつきもので』おまけSSその1
 しかし、まさか、あんな青天の 霹靂(へきれき)に見舞われるとは。

 取引先のおもちゃ屋『ヤマモト』の社長が、なんと花梨の大学時代の元カレ。

 そして、奴の眼差しの中に、花梨への思いがくすぶっていることを、俺は即座に見てとった。

 だからあの日の帰り際、あの優男が「辻本さん」と花梨を呼び止めたとき。

 俺は妬ましさでどうにかなってしまいそうだった。

 だが、半ば諦めてもいた。
 こりゃ勝ち目はねえなと。

 なにしろ、あのころの花梨は、嫌になっちまうほど、俺を疎んじていたし。

 だから、5分ほど待って、上気した顔で花梨が駅に現れたとき、思わず悪態が口をついてしまった。

 「再会の口づけでもしてたのか」と。

 しまった、と思ったときは後の祭り。
 ただでさえ、セクハラ野郎だと思われているのに……

 悪いことをしたとは思っていた。

 まさか蹴っとばされるとまでは思っていなかったが。

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