鬼は妻を狂おしく愛す
「あ…あ…」
美来の腰を抱いて車に戻ろうとする雅空に、シャツを少し引っ張って訴える、美来。

「ん?きつい?抱っこしてやろうか?」
頭を横にぶるぶる振る、美来。
【そうじゃないの】
「じゃあ、何?」
恥ずかしさで、俯く美来。

その美来の顔を覗き込み、手話で問いかける。
【どうしたの?】
【退かないでね?】
意を決して雅空を見上げ、伝える美来。
「うん」

【雅空に惚れ直してたの。
あまりにも色っぽくて、カッコよかったから】

その言葉に、今度は雅空が心臓がドキッと高鳴った。
「そうゆうの……反則だろ…!?」
頭を抱え、呟く雅空。
【どうしたの?】
雅空を見上げ、顔を覗き込む。

すると雅空は、美来の頬を両手で包み込んで言った。
「惚れ直すなんて、俺は日常茶飯事だよ。
毎日、美来が可愛すぎて、愛しくて堪らないんだから」
そして口唇を親指でなぞる。
「今だって、そんな可愛い美来にキスしたくて堪らない」


「━━━━あれ?雅空様?」
雅空と美来がお互いに惚れ直し、熱くなっている頃。

少し離れた所から、妖子が雅空の存在に気づく。
「━━━━━━!!?
雅空様って、あんな愛おしそうな表情するの……!?」

妖子は驚愕していた。
雅空の柔らかい表情、優しい表情、そして…愛おしそうな表情を見たことがない。
妖子の知っている雅空は、威圧感があり、笑わず、口数も少ない恐ろしい鬼。

いつも店に顔を出してくれても、前のようにすぐに出ていってしまう。
たまに席についてくれたとしても、特に話をすることもなく一杯だけ飲んで帰ってしまう。

それでも妖子や他のホステスにとっては、その恐ろしさも色っぽさを増幅させ美しく見えるのだ。
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