鬼は妻を狂おしく愛す
“貴方の色っぽい声だけは、私だけのものですよね?”

声━━━━━━

“貴方の色っぽい声”

声………………

貴方の色っぽい“声”

こ、え………

明らかな美来への挑発だ。

“耳が聞こえない”美来への━━━━━━


「美来?」
なかなか戻ってこない美来を探しに、雅空が脱衣所に来る。
只事ではない美来の姿に、思わず駆け寄り跪いた。
「美来!!?大丈夫!?」

「はぁはぁはぁはぁ……」
上手く息ができない状態で、雅空を見た美来。
雅空の着ているガウンから覗く胸に目がいく。

この身体が、
この手が、
この口唇が、
舌が………私以外の女を━━━━━━

そして私には一生聞けない声を………
私以外の女に聞かせた━━━━━━


「うぅ……」
美来は嫉妬という嫌悪感で吐き気がして、トイレに駆け込んだ。

身体の中のモノを全て吐き出した。

このまま、嫉妬心や嫌悪感、そして雅空への狂おしい愛情でさえも……吐き出せたらどんなに楽だろう。

雅空もすぐに追いかけ、美来の背中を優しくさする。
この優しい手が、私以外の女を愛したのだ。

美来は思わず、雅空の手を払うように振り返りそのまま突き飛ばした。

「美来!?」
まさか美来に突き飛ばされるなんて思わない雅空。
心の底からびっくりしている。

そして美来は持っていた、マッチとメッセージカードを雅空に投げつけた。
それを拾いあげた雅空。

“それ”の存在に、本来の鬼頭 雅空が顔を出した。
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