なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む
 真夏に受験勉強を始めたのに、すっかり季節は冬になっていた。

 シャワーを浴びてから始めていた受験勉強も、お風呂で浴槽に浸かって温まるように。

「茉帆。しっかり温まったか? 髪は乾かした?」
玲於奈さんは、こういう事には何故だか過保護な父親みたいになる。

「乾かしましたよ。大丈夫です」

「風邪でもひかせたら大変だからな」

「寒い外に出る機会もありませんし、マンションの中はいつも快適な温度ですから」

「外に出る機会か……」

「ああ。出掛けたいって意味ではありませんからね」

「いや。気分転換も必要だよな。街はもうクリスマス一色だよ」

「そうでしょうね」

「茉帆をマンションに閉じ込め過ぎたかな?」

「いいえ。受験生ですよ。閉じ籠もって当たり前です」

「茉帆も数学がかなり解るようになって来てるだろ」

「玲於奈さんのお陰です」

「茉帆が頑張ったからだよ」

「いいえ。家庭教師が最高ですからね」

「じゃあ、ご褒美にクリスマスは出掛けようか?」

「えっ? クリスマスですか?」

「お洒落をして食事に出掛けよう」
優しく微笑んで玲於奈さんは言った。
「素敵なお店を予約しておくよ」

「はい。嬉しいです」

「とびきり綺麗にお洒落してデートしてくれますか?」
玲於奈さんは手を差し出した。

「はい。喜んで」
私は玲於奈さんの手を取って微笑んだ。

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