なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む
 ドアをノックする音。

「はい」

 坂元伊織秘書だ。
「和泉さん。そろそろ良いかな? 秘書課に行ける?」

「はい。お願いします」

「じゃあ、専務。一人で寂しいと思うけど、和泉さん借りるから」

「ああ」

 専務室を出てフロアの端に秘書課があった。ドアを坂元秘書が開けて

「ちょっといいかな? 紹介するよ。きょうから専務専属秘書として来て貰う和泉さんです」

「和泉茉帆と言います。宜しくお願い致します」
笑顔とお辞儀の角度もこれで良いと思うけど……。

「専属ですか?」
女性の声……。

「ああ、そうだ。だからここに顔を出す事もあまりないと思う」

「また美人秘書が就いたんだね」

「目の保養もしたいから偶には来て欲しいな」
男性の声……。

「いえ。こちらの皆さんお綺麗な方ばかりで、私など必要ないかと思いますが」

「じゃあ、そういう事だから。宜しく。和泉さん行こうか?」

「はい。それでは失礼致します」
秘書課を後にした。

 廊下を歩きながら

「どうだった? 家の秘書課」

「はい。若干名の女性の視線を感じましたが……」

「まあ、専務はモテるからね。でも玲於奈は女性関係は、何処を叩いても埃も塵ひとつ出て来ないから安心して良いよ」

「高校からのお付き合いだそうですね?」

「そう。玲於奈にスカウトされて今専務秘書としてここに居る」

「高校大学時代の玲於奈さんのお話も聴いてみたいです」

「そう? また教えるよ」
眼鏡の奥の瞳が優しく微笑んだ。

 坂元秘書もイケメンだと思う。


< 50 / 188 >

この作品をシェア

pagetop