なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む
 ドアをノックして
「只今、戻りました」
と坂元さんが

「ああ」
うん? 何か不機嫌そうに見える気がするけど……。

「じゃあ、専務。きょうは午後から重役会議がありますので」

「ああ、分かってるよ。伊織は秘書課で仕事があるだろう?」

「はい。会議まで秘書課におりますから」

「ああ。分かった」

「では失礼します」
坂元伊織秘書は出て行った。

「あのう、何かありましたか?」

「何かって?」

「いえ。何もなければ良いです」

「秘書課の珍獣たちに見られたと思ったら、ちょっとムカついた」

「珍獣ですか?」

「化粧で化けた女狐と美人に目がない狸たちだからな」

「ふふっ。じゃあ秘書課は動物園なんですね」

「まあ、そう言う事だ」

「えっと。私は何をすれば良いでしょうか?」

「そうだな。先ずは家の商品を勉強して覚えてくれるか? 最新のカタログだ」

「はい。えっと何処で?」

「そこのデスクが茉帆のだから」

「えっと、坂元秘書のデスクは?」

「秘書課にあるから心配ない」

「あぁ。はい。分かりました」

「たくさんあるから時間が掛かると思うけど」

「はい。大丈夫です」
重いカタログを開いて勉強か?
勉強なんて美容短大以来だななんて考えていると……。

「その前に連れて来いと煩いから、今から社長室に行くぞ」

「あ、はい。分かりました」


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