仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
まさかその名が出てくるとは思わず怯んだユーリスににやりと口角を上げる男性こと、ジェイド皇帝は隣に立つマリーこと、マリーベル皇妃と目を合わせふふふっと意味深な笑みを零した。
「愛しい人を自分の名の由来になった蝶の名で呼ぶとはなかなか粋なことをするじゃないか」
「うふふっかわいいことするわね、薔薇の君」
「ぐっ……」
ふたりにしっかり盗み聞きされていたのだとわかって恥ずかしさのせいで言葉に詰まる。
ユーリスの名はユリシスという青い蝶の名からきているので似ているのも当然。
今日のフローラの姿が蝶の仮面に青いドレスだったものだから容易に連想しその名で呼んだ。
これも確実に皇帝の差し金であるのだとユーリスは気づいて益々恥ずかしい。
「今までの画策といい盗み聞きといい、悪趣味すぎやしませんか」
苦し紛れに文句を言うと皇帝はふんぞり返るように腕を組みユーリスを見据える。
「なにを言う。素直じゃないユーリスに気づきを与えるにはこれくらいしないといけないのだ。それに、今日もお前がグズグズしてる間にフローラがどこぞの男に声を掛けられいい雰囲気になってるものだからひやひやしたぞ?」
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