仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
「大丈夫かフローラ。ユーリス殿は、その、今回の殺人事件でかなりの噂が立っている。皇帝陛下も噂を治めるのに苦慮しているようだが」
「お父さま、ユーリスさまは何も関係ありません。勝手に仮面をまねられて、ユーリスさまはいわば被害者です」
「しかしな、真似られるということは、悪意あってのことだろう?いずれユーリス殿やフローラに危害が加わることもあるかもしれんぞ?」
「私はなにも危険を感じたことなどありません。お父さまは心配しすぎです」
「しかしなあ」
いつものように汗を拭き拭き心配しているだろう男爵に一生懸命訴えるフローラをユーリスは複雑な思いで聞いていた。
なにを聞いても自分を信じてくれるフローラがたまらなく愛しい。
しかし、今回は自分だけ事件に巻き込まれたが、このままフローラをそばに置いておけば今度は彼女が危険に曝される可能性もある。
ユーリスを妬み失脚させたい輩はまだまだいる。今後は安全だとは言い切れない。両親を失った襲撃事件を思えば、彼女にもしものことがあれば自分が耐えられない。
それに……
ユーリスは白い手袋をした手を見下ろした。
この手が血で真っ赤に染まったような気がしてぎゅっと握りこむ。
今回の件で、自分は無意識のうちに犯罪を犯していたかもしれないという懸念が頭を過る。
今後も犯罪を起こさない(・・・・・・・・・)確証もない。
ユーリスは自分自身を信じることができないでいた。
ならばいっそ、彼女の身の安全のために今のうちに手放しておいた方がいいのかもしれない。
身を切る思いでそれを決断したユーリスは居間に入ると男爵の前に立った。

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