仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
「旦那さま」
出掛ける支度をして玄関に向かうユーリスを無言で追っていたベリルが重々しく口を開いた。
「……なんだ」
「努力してみると言ったのは嘘だったのですか?」
「いきなりは、無理だろう。時間をくれ」
ぶすっと子どものように膨れるユーリスにベリルはため息をつく。
「はあ、今まで女性を遠ざけていたツケが出ましたね。わかってはいましたが」
それにはムッとしたが本当のことなので反論できない。
意外とおしゃべりだったフローラにどう返していいものかユーリスも悩んでいたのだ。
しかもこの仮面の姿を気味悪がってまともに顔を見ようともしない者が多いのに、あんなに真正面からにこにこと見つめられてはさすがのユーリスも視線が合わせられずに戸惑った。
「何も構えることはないのです。自然と思ったことを話せばよいのですよ」
「ん……まあ」
そうなのだろうが、どうもフローラの前だと上手く話せない。
皇帝の前だとズバズバ何でも話すのにどうしたのかとユーリスは自分でもわからない。
首を捻り悩ましい顔をするユーリスにベリルはまたため息を吐く。
「しかたありませんね、それは追々改善して頂くとして、四日後の舞踏会ではフローラさまのエスコートをお願いいたしますよ?」
「はあ?なんで私が」
「フローラさまは旦那様の婚約者なのですよ?当然ではないですか。今年デビューのフローラさまは初めての舞踏会に心細い思いをするはずです。きちんとフォローをお願いいたしますよ」
舞踏会などほとんど出ないユーリスを知っていながらベリルは当然とばかりに言ってのけた。
それに渋い顔をするユーリスが文句を言う前に「ほらほらお仕事ですよ」とベリルに追い出されてしまった。

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