仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
***

「ユーリスさま!お帰りになられていたんですね」
「ああ、暫く留守にしていてすまなかった」
朝フローラが食堂へ行けば先にユーリスが着席していて驚き、ぱあっと花が咲くように微笑んだ。
ユーリスの正面に着席すると頓着なく真正面から顔を見つめにこにこしているフローラ。
朝から明るいフローラにテンションの低いユーリスは目を逸らし、んんっとベリルに咳払いされる。

「お仕事お忙しいのですね。お疲れ様です」
「……ああ」
「あの日、わざわざ帰って家の皆さんに私をお迎えするよう伝えてくださったそうですね。おかげで皆さんに温かく迎え入れていただいてうれしかったです。ありがとうございます」
「いや」
「このお屋敷はユーリスさまが設計されたそうですね、とても重厚で素敵な作りに圧倒されました」
「そうか……」
「舞踏会の定番曲になったというユーリスさまが作曲した曲をベリルさんがピアノで弾いて聞かせてくれたんです。とっても軽やかな曲で私も躍ってみたくなりました。やはりユーリスさまは才能あふれる方なのですね」
「……ん゛ん゛っ!」
一生懸命フローラが話しかけるのだがユーリスからはこれといった返事がなく、時々ベリルの咳ばらいが返事のように食堂内に響いた。
食事を終えればすぐさまユーリスは立ち上がり「すまないがこれから仕事があるので失礼する」と素っ気なく言って行ってしまった。そんな主にため息をつきベリル執事が後を追っていく。
それにはさすがにフローラも気落ちした。
今までの婚約者も冷たい態度に耐えかねて逃げ出したと聞いたが、多少返事はしてくれるものの終始無表情でこうも反応が薄いと確かにこれはきついかもしれない。
マリアが気遣わしげに声を掛けた。
「フローラさま、ユーリスさまが素っ気なくて申し訳ありません。でも、あれは照れ隠しなのですよ。どうか気にやまずに、まだ時間が必要なのです」
「そう、そうね。もっと打ち解ける時間が必要よね」
笑顔を見せたフローラにマリアもホッとした。

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