仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
優雅に踊る皇帝と皇妃をフローラは羨望の眼差しで見つめた。
自信はないけどあんなふうに優雅に踊ってみたい。
目をキラキラさせているフローラの横顔を見つめユーリスは手を差し伸べた。
「一曲躍っていただけますか?フローラ嬢」
「は、はい!」
畏まったユーリスに驚くもフローラは嬉しくてその手を取った。
ダンスの輪の中に入ったユーリスはフローラの腰に手を回しグッと引き寄せる。
あまりの近さに頬を真っ赤に染めたフローラは最初のステップが出遅れた。
あっと思った時にはユーリスに支えられ難を逃れ、グッとより腰の手に力が込められた。
(あわわっ)
ドキドキと心臓の音がうるさくて曲が耳に入って来ない上に、最初の失敗が尾を引いておぼつかない足取りのフローラは焦って足元ばかり見ていた。
「足元ばかり見てないで顔を上げなさいフローラ嬢」
「あ、はい」
顔を上げれば頭ひとつ分上にあるユーリスと目が合ってフローラはドキッと胸が跳ねた。
こんなに近付いたのは初めてだ。仮面から見える右目もよく見える。
「足元ばかり気にしていてはダンスが楽しめないだろう」
「あのっごめんなさい」
窘められてしゅんと視線が落ちる。
「音楽に耳を傾けて、私に身を任せなさい」
「えっ」
「ダンス、楽しみだったのだろう?」
「ユーリスさま」
短い会話の時間にフローラが舞踏会は緊張するけどダンスは楽しみだと話をしたことをユーリスは覚えていてくれた。
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