仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
刺繍は淑女のたしなみでもある。それならフローラもやったことがあるだろうと言ってみたのだが、フローラはははっと引きつった笑いを浮かべる。
「刺繍、ね。先に言った通り、私不器用で、刺繍は上手にできないの」
はあっとため息をついて頭を垂れるフローラにマリアは慌てる。
「そ、そうでしたか。手先を使うものは苦手なのですね。では練習しましょう」
「練習?」
「はい、何事も繰り返し練習すれば自然とうまくなるものです。苦手ならなおさら練習して克服しましょう。そしてうまくいったものをユーリスさまにプレゼントするんです。一生懸命フローラさまが作ったものならなんだってユーリスさまは喜ばれますよ」
マリアのなんだって(・・・・・)、というところは引っ掛かりを覚えたが、確かに今まで刺繍はうまくできないからと途中で諦めてしまっている。
もう一度何度も練習すれば不器用な自分でも少しは上手になるかもしれない。
そう思ったフローラは少しやる気が出てきた。
「そうね、やってみようかな」
自信なさげに笑うフローラにマリアは満面の笑みで頷いた。
そしてフローラは「これでも刺繍が得意なんです!」というマリアに教えてもらうことになり毎日チクチクと練習するため部屋から出ることが少なくなった。
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