仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
***

時間も忘れチクチクと刺繍の練習をするフローラの許へマリアが呼びに来たのはユーリスが帰宅してすぐのこと。
「フローラさま、ユーリスさまがお呼びですよ」
「え!ユーリスさまが」
ここ最近彼を避けていたから呼んでると聞いて思わず声が裏返ってしまった。
マリアに「今が渡すときですよ」と言われて、今までで一番出来のいい刺繍が施されたハンカチを持ってユーリスの許へ向かう。
いい出来といっても不器用なフローラのこと、傍から見てもお世辞にも上手とは言えない刺繍に不安が過る。
「フローラさまが心を込めて一生懸命縫ったのですからユーリスさまはどんなものでも絶対喜んでくれますよ」
と、マリアが謎の太鼓判を押すから持ってきてしまったけど。
(もっと上達してから渡したかった。でもこれ以上上達しそうにないし、ユーリスさまとずっとギクシャクしたままも嫌だし……)
「ユーリスさま、フローラさまがいらっしゃいました」
フローラが悶々と考えを巡らせているにも関わらず先導していたマリアがユーリスの待っている書斎をノックする。
「お、おかえりなさいませユーリスさま」
「ただいま」
フローラはユーリスの返事に目を瞬かせた。
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