仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
***

「どうしたユーリス、浮かない顔して。何か悩み事か?」
「別に、なにもありません」
いつものようなやり取りをして淡々と仕事をこなすユーリスに皇帝は少々不満顔。
フローラの所在を確かめようと躍起になっていたはずが、ある時からまるでフローラなどいなかったかのように話題にも出さなくなった。
やせ我慢をしているのは火を見るよりも明らかなのだが、素直じゃないユーリスに皇帝はもっと感情を揺さぶらなくてはと秘かに思う。
「ところでユーリス、洒落た手袋をしているな」
「は?」
「ちょっと歪な気もするが花の刺繍が施されてるじゃないか。私も欲しいな、どこで仕入れた?」
「これは……」
ユーリスは手袋をしている右手を左手で掴んだ。
ユーリスの右手は顔同様火傷の痕がありその影響で今も指が動かしずらい。
それを隠すために常に手袋を嵌めているのだがいつもはシンプルな白い手袋だった。
今日の手袋の甲には少し歪んでいるが紫のビオラが小さく刺繍されている。
目ざとく見つけた皇帝にユーリスは黙ってしまった。

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