仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う

フローラは皇帝の計らいでこの後宮に父とともに住まわせてもらっている。
ユーリスがフローラを探しているらしく会わないようにと宮殿のゲストルームからこの後宮に移り住むよう促された。
皇帝は悪いようにはしないからと言ってくれたものの恐れ多くてアーゲイド男爵は汗が止まらず、フローラも気落ちしたままだったが、家庭教師を頼まれてから子供たちのかわいらしさに元気を取り戻してきたばかりだった。
とはいえ後宮にユーリスが訪れることもあるから油断ならない。

マリーベル皇妃の茶会に招かれたときにユーリスが来て一緒にいたアリエラ皇女とレオンハルト皇子とともに慌てて隣部屋に隠れたことがあった。
『あらユーリス、私にご機嫌伺とは珍しいわね。どういう風の吹き回し?』
『いえ、特に理由は』

『ふふっユーリスは絶対フローラを探しに来たんだよ』
『だいじょうぶよ、フローラのことはぜったいおしえないんだから』
漏れ聞こえる声にレオンハルトは笑いをこらえるのに必死だ。
アリエラは鼻息荒く頼もしいことを言う。ふたりともユーリスはフローラを泣かせて家から追い出したと聞いているのでフローラに同情的だ。
『あら、誰か探しているのかしら?』
『いえ、それでは失礼いたします』
去っていくユーリスの気配に子供たちはくすくすと笑う。
フローラもつられて乾いた笑いを零すが心境は複雑だった。
(ユーリスさまは私などもう顔も見たくないと思っているのに、探しているわけないわ)
そう思うと悲しくなって、フローラは胸がぎゅっと締め付けられ途方にくれるのだった。
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