望月先生は甘くない ~年下ドクターの策略~
「それもそうね。忘れてた。じゃあその分は今日の水族館で許してあげる」
少しだけ年上ぶりたくて言えば、望月くんは初めてみる屈託のない表情で笑い声をあげた。
「柚葉さん、やっぱりいいわ」
一人で納得するように言ったあと、彼は「あー久しぶりに笑った」と意外な言葉を発した。
いつもどんな時も笑っている望月君しか私は知らない。
それなのに久しぶりに笑ったの? そんなことを聞けずぼんやりと望月君を見上げていると「柚葉さん」と落ち着いた声音が聞こえた。
「え?」
駅前はかなりの人が往来している。その場で私は今起きたことが解らなくて呆然とした。
「今日、最後にもらいました。じゃあまた」
そう言うと、彼は改札へと行ってしまった。
高校生でもあるまいし。自分にそう言い聞かすも、頬が熱い。
一気に顔に熱がたまるのが分かる。
それではっきりと、頬にキスをされたことに私を思い知った。
こんな往来の多い場所で、一人取り残された私に、チラチラと生ぬるい視線がまとわりつく。
望月君のバカ! 心の中でどれだけ罵っても本人はもういない。
慌ててその場から逃げるように私は歩き出した。