きみと真夜中をぬけて






一般的な家庭の基準は分からないけれど、少なくとも私の家は普通とは言い難かったような気がする。




父親は、私が中学2年生の時に他に女を作って出て行った。

仕事人間で家に帰ってこない日が多いなとは感じていたけれど、母より若い女に目がくらみ、家族を簡単に手放せるような人だったのだとその時に実感した時は「なるほど」とだけ思った。



愛も恋も共に過ごした時間も、本能に太刀打ちできるほどの力は持っていないらしい。



父の浮気が分かった時、母は「そんな気がした」とあっさり言い放ち、父を責めたりはしなかった。



それから今まで、母が父の悪口を言っているところは一度も聞いたことがないし、泣いているところも見たことがない。

かと言って母の笑顔を嘘くさいと思ったことはなかったし、私に恨みや憎しみを抱いているとも感じていなかった。


単純に、弱いところを隠すのがとても上手な人なのだと思う。そんな母を、私はひそかにいつも尊敬していた。


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