きみと真夜中をぬけて
母は果たして普通だと言えるのだろうか。
人より幾分と強い心を持つ母を普通と称するには少々勿体ないような気もする。
如何せん、娘を夜の街に平気で送り出すような人だ。母の娘じゃなかったら、私は今頃社会に対して呼吸困難で、そのまま溺れてとっくに死んでいたと思う。
『若いってのは、それだけで人生の武器だから』
それは、私の自慢の母の常套句だった。
「いってらっしゃい、蘭」
「…うん」
履きなれたスニーカー。半袖の上に羽織る、夜の肌寒さを考慮したパーカー。イヤフォンとスマホは人生の必需品。帰りがてらアイスが食べたくなった時のための、予備の500円。
それから──17歳の私。
全部、夜を超えるための私の武器になる。
「いってきます」
母は、今日も笑顔で私を送り出してくれた。