誘惑の延長線上、君を囲う。
「余りお話をした事はないのですが、秋葉さんは女性らしい可愛い方なので、副社長にお似合いですね。美男美女です」

第一印象はとても良かった。特別な意識をしなくても仕草や言動、思考までもが女性の独自性を感じた。日下部君が惹かれるのも分かる。私には無い女性らしさがあるもの。私と同じような、ふわふわウェーブの髪型をしていても、秋葉さんは可愛らしいのに対して、私は可愛いからは遠ざかっている。

「そんな事を言ってくれるのは佐藤さんだけですよ。日下部さんからは、おままごとだって笑われるし、あの人、本当に口悪いですよね」

にこにこしながら話しているかと思えば、不意にムッとした顔になり、膨れっ面で日下部君の文句を言っている副社長が愛らしく思える。義理の弟で日下部君にとっては恋敵だったのだろうけれど、何となく憎めないな。

「お兄ちゃんの学生時代の話とか聞きたいし、今度ゆっくり、お兄ちゃんも交えて皆で食事でもしましょう」

「えぇ、是非」

皆、日下部君の学生時代の話が聞きたいんだな。現在の日下部君よりも、学生時代の方が沢山知っているし、沢山語れる事がある。

副社長は他の皆とも雑談を交わし、我が部署を後にした。食事会がいつになるかは分からないけれど、秋葉さんとも話をしてみたいし、楽しみだ。でも……、秋葉さんと日下部君が楽しそうに話をするのを見るのは酷だな。秋葉さんは副社長の婚約者だって知っているけれど、日下部君の想い人が秋葉さんだから複雑。
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