誘惑の延長線上、君を囲う。
男性は見た事がない人だったが、私の顔も名字も知っていた。誰だろう?Иatural+の企画室の方?

「佐藤さんとは初めましてですね。私は代表取締役副社長の花野井 有澄と申します。佐藤さんは日下部さんの同級生なんですね。佐藤さんの話題は少しだけ、日下部さんから聞いています」

日下部君から何を聞いたの?良からぬ事を言ってない事を祈るしかない。

花野井……?社長と同じ名字だ。

「今日は日下部さんの話題をしながら出勤したの。絶対に絶対、日下部さんが飲み会に参加しなかったのは何か訳があるって思って!……さて、日下部さんが社長室に呼ばれてるって聞いたから、帰って来るまでコーヒー飲んじゃおうっと」

高橋さんは日下部さんが不在だと分かるとコーヒーマシンから、カフェラテを注いでいた。美味しそうな香りが辺りに漂い、私の分も入れてくれる。

「佐藤さんとは仲が良くて、一番の女友達だって言ってました。……ちなみに俺は、日下部さんの義理の弟です。宜しくお願いします……!」

語尾になるにつれ、副社長の声が小さくなった。義理の弟だとバレたくなかったのかもしれない。私は遠慮なくカフェラテを頂きながら、副社長と話をする。

副社長はアイドル系の可愛いらしい顔付きをしている。目がパッチリ二重で鼻筋も通っている。茶系の髪の毛、スラリとした手足。身長も180センチは超えていると推測される。

副社長は私のデスクの横に椅子を持って来た。

「佐藤さん、因みにこの人、秋葉 紫の婚約者だよ。知らない人は居ないと思う」

同じ職場だから有り得る事だけれど、社内公認って羨ましい。頭のなかで二人並べて考えてみると秋葉さんと副社長、確かにお似合いだ。ふわふわ~なやんわりとした雰囲気が二人のイメージだ。

日下部君は、この副社長と恋敵だったんだ。日下部君と副社長は痩せ型という部分以外は似ていないから、秋葉さんの好みが副社長だったのだろう。性格的にも副社長は穏やかな雰囲気を醸し出しているから、日下部君とは違う。話し方もとても丁寧だ。
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