誘惑の延長線上、君を囲う。
「良かったら食べて。今日は車で出勤するから、一緒に行こう」

私は思わずコクンと首を縦に振り、頷いた。買い置きしてあったバターロールもテーブルに置かれ、「いただきます」と聞こえるか聞こえないかの小さな声で言ってから、食事を始めた。

日下部君の言う通り、見た目も中身もカリカリだったベーコン。目玉焼きは半熟加減がちょうど良い。日下部君は依然としてコーヒーだけかと思えば、主食は食べずにオカズだけを食べている。

日下部君は泣き腫らした私の目を見ても、何も言わない。明らかに腫れぼったいのにな。黙々と食べていて、会話はない。

「出張の許可証、明日までだから。提出忘れないように」

先に食べ終わった日下部君は食器を片付けながら、私に背を向けて語りかける。出張内容などはメールに添付してあったものを確認したが、許可証を返送してなかった。今まで忘れた事も提出期限がギリギリになる事も無かったのに、どうかしている。

「そうだ!昨日、同級生の田中から電話があったんだけど、正月に同級会をやらないか?って。街中でたまたま担任の安東先生に会ったらしく、その時に話が出たらしい。琴葉のとこにも誰かから連絡が来るだろうけど、一応、知らせておく」

「……うん、分かった」
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