誘惑の延長線上、君を囲う。
私は悩みに悩んで、ニットのネックワンピースにした。首元が上まで隠れる洋服はこれしか無かったといっても過言ではない。

──夕方5時。パーティーにお呼ばれした先は、副社長の実家、花野井家だった。花野井家はとにかく大きくて、セキュリティも万全で家政婦さんも居る。

副社長の実家ということは、日下部君の実家"だった"ということにもなる。副社長は義理の弟にあたり、社長は二人の母という立場だ。

「あけましておめでとうございます。佐藤さん、郁弥がいつもお世話になっております。さぁ、どうぞ」

玄関先で出迎えてくれたのは、社長だった。社内でもなかなか会えない雲の上の存在なのに、意図も簡単にお会い出来るとは……。

「あけましておめでとうございます。今年度もよろしくお願い致します。では、お邪魔致します」

私は一礼して、靴を揃えてから自宅の中へと足を進める。社長はいつ見ても若々しく、年齢を感じさせない。目鼻立ちがはっきりしていて、綺麗な人。間違えなく、副社長は母親似だよね。日下部君はどちらかといえば、父親似だと思う。高校時代に見た実のお父さんは、切れ長の瞳が日下部君に似ていたもの。

通された先は広いリビング。そこには、社長夫妻、副社長と秋葉さん、副社長の秘書さんと彼女さん、綾美ちゃん夫婦が御出迎えしてくれた。年始の挨拶を済ませて、指定された場所に日下部君と一緒に座る。テーブルには豪華な料理が沢山並んでいた。
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