誘惑の延長線上、君を囲う。
「ご婚約おめでとうございます!」

副社長のお父さんにご挨拶をして手土産を渡した。その後、案内されたリビングのソファに腰をかけた瞬間、パァンッと弾けたような音が鳴り響く。散らばらないクラッカーを皆が鳴らしたのだった。状況を理解出来てない私は思わず、隣に座っている日下部君の顔を見てしまう。唖然としている私に秋葉さんがシャンパンの入ったグラスを手渡してくれた。

「改めまして郁弥君、琴葉さん、ご婚約おめでとうございます!二人の末永いご幸福を祈念いたしまして、乾杯!」

副社長が乾杯の音頭を取り、おめでとうの歓声が再び広がる。

「郁弥君が結婚すると聞いたので、いち早く、お祝いをしたかったんだ。佐藤さんが知っている通り、郁弥君は有澄の兄であり、私達の息子でもある。疎遠になってしまった時期もあったが、今はこうして、皆が仲良くしてくれる事が嬉しいんだよ。これからは気軽にこの家にも足を運んで下さい」

社長の旦那様、つまりは副社長のお父様が私を見て優しい微笑みを浮かべながら語りかけてくれた。

「そうそう、琴葉ちゃんも女子会メンバーになったんだから、これからは遠慮なく遊びに来てね。郁弥が居なくても来て。紫ちゃんも綾美ちゃんも和奏ちゃんも皆、男が来なくても来てるわよ」

和奏ちゃんとは、副社長の秘書さんの彼女である。社長は会社内ではツンケンしているようなバリキャリだけれども、今は顔つきも柔らかく、親しみやすい。オンとオフの切り替えをきちんとしている人なんだなぁ。
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