誘惑の延長線上、君を囲う。
焼肉屋を出た後、私達は再び車に乗り込んだ。私はいつの間にか寝てしまい、気付いた時には自宅のアパートまで着いていた。

「佐藤……、委員長……!起きて!着いたから」

「っわぁ!ここ、……どこ?」

「……っぷ!佐藤、ヨダレ垂れてる!爆睡してたもんな!」

日下部君にティッシュでヨダレを拭かれた。車の微々たる揺れが心地好くて、ふと目を閉じたら意識が飛んでいた。爆睡してヨダレを垂らすって、私は恥じらいはないのかしら?日下部君もだけれど、私も昨日の寝不足から、状況次第ではすぐに眠りにつきそうな位に張り詰めていた。

「ごめんなさい……、すぐに荷物取ってくるから……!」

日下部君の手の内にあったティッシュを奪い取り、勢い良く車を降りた。日下部君に気を許し過ぎて、素の情けない私を出し過ぎて優等生の私の影は薄れて行く。しかも、泊まりに行く事に対して返事も不確かにしていたくせに、咄嗟に承諾してしまった。爆睡してヨダレ垂らした辱めのせいで、恥じらいを隠す為に捨てセリフのように言ってしまった。

待たせているから早くしなくては……と思いつつ、アレもコレもとか考えてバッグに詰め込んだが、おひとり様でホテルに宿泊用セットをそのまま持って行けば良い事に気付いた。キャリーだけれど、良いよね?キャリーの中にはお泊まり用の専用化粧品からヘアーアイロンまで入っている。着替えだけ入れれば完了。

慌てて着替えを詰めて、電気を消して玄関から外へと飛び出す。夜にも関わらず、私はバタバタとしているから後から苦情が来るかもしれない。
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