誘惑の延長線上、君を囲う。
まるで社内恋愛をしているかのような気持ちになり、他の社員にバレないかとか、秘密のやり取りに対してドキドキワクワクしていた。私と日下部君のデスクは離れていて、日下部君のデスクに関しては壁際にある為、死角になっている。今のところ、怪しまれている様子はない。

その後、日下部君はメッセージで少しだけ残業すると言ってたので、先に仕事を終えた私はマンションがある駅前のコーヒーショップで待ち構えていた。

「ごめんな、仕事が長引いて」

日下部君からのもうすぐコーヒーショップ前に着くとの連絡に合わせて、支払いを済ませて外に出た。外は暑くて、今日は熱帯夜になりそうだ。

「ううん、大丈夫だよ。本を読んで待ってたから」

シリーズ物のミステリー小説を読みながら待って居たので退屈はしなかった。……がしかし、メッセージがいつ入るのか待ち遠しく、スマホを眺めては本を読んでの繰り返しだったので頭の中にストーリーが入り込んではいなかった。

「あっついから涼しい所が良いな。金曜日だから居酒屋は混んでそうだな……」

「そしたら、まだ間に合うからデパ地下でお惣菜買って、家で飲まない?」

「その方が良いかもな。明日に備えてそうするか」
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