誘惑の延長線上、君を囲う。
───眠っていたはずなのに、急に息苦しくなり、うっすらと目を開ける。

「……っん、……わぁっ、な、何?」

「着いたぞ、起きろ!」

目を覚ました瞬間に日下部君の顔が目の前にあった。寝起きから心臓に悪く、鼓動が高鳴る。

「鼻を摘んでも起きなかったら、キスをして起こそうと思っていたところだった。キス出来なくて残念……」

日下部君はドキドキしている私なんか、お構い無しに妖艶な笑みを浮かべている。私の側から離れた日下部君は、先に車から降りていた。

車内からは知らない景色が広がり、慌てて上半身を起こす。寝起きで状況が把握出来ていないが、そう言えば、朝早くに叩き起されて、頭がぼぉーっとしているままに支度をして車に乗せられ、海に向かった。いつの間にか、私は寝てしまっていたんだ。

「………ごめんね、日下部君。また寝ちゃってた!」

「もう慣れっ子だから大丈夫。それより、今日はヨダレは垂らしてなかったぞ」

「ば、………馬鹿っ!」

日下部君の後を追うように車から降りる。日下部君は、晴れ晴れとした夏空の下、運転で凝り固まった身体を伸ばしていた。私が降りた事を確かめると、いつもの意地悪を言い、ニヤニヤと笑う。

さり気なく、手を繋いで歩き出す。

「海に入らないなら暑すぎるから、水族館行こう」

「水族館なんて、いつぶりかな?楽しみ!」

水族館は海辺付近に隣接してある。夏休み期間の日曜日とあって、海も水族館も賑わっていた。子供連れとカップルが沢山居る。

私達は水族館を楽しんだ後に海辺の回転寿司に入り、その後は海を眺めた。あんなにも賑わって居たのに、夕方が近くなればなる程、人の姿は僅かしか居なくなっていた。
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