誘惑の延長線上、君を囲う。
「あっついけど、海に来ると夏真っ盛りって感じがするよね」

砂浜を歩き、しゃがんで海水に触れてみる。気温が高いせいか、生温い。

「そう言えばさ、夏休み期間中の学習会の後に皆でかき氷を食べに行ったのを覚えてる?」

進学校だった私達の高校は、夏休みと冬休みの期間に何日間か課外学習があった。不得意な科目を希望して授業を受けられたのだが、それよりも優先すべきは日下部君だったので、こっそりと同じ科目にしていた。

「覚えてるよ。あの後、カラオケも行ったよな?」

「……え?カラオケ?私、日下部君とはカラオケに行った事ないよ?」

「そうだったか?記憶があやふやだけど、いつでも隣には琴葉が居た気がしてる……」

私もそう思っているよ。素直に言葉には出せないけれど……。

「いつの間にか、隣に居るのが自然体になっていたんだな。現在だって関係性は変わっても、こんなにも自然に隣に立って居られる。これから先の未来、琴葉が隣から消えてしまったら……と思うと何だか怖いな」

日下部君は立ちながら私に向かって話をしている。凄く喜ばしい事を言ってくれたのだけれど、私が一番に欲している言葉二文字は決して言ってくれない。自分の方に打ち寄せては消える波を見つめながら、悲しみに暮れる。
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