誘惑の延長線上、君を囲う。
「良く寝たーって、背伸びした方があってると思うけどな……」

「うるさい!寝ちゃって、ごめんってば」

「まぁ、いいよ。いつもの事だから」

日下部君も運転で疲れたのか、欠伸をして背伸びをしている。私は咄嗟に日下部君の肩を揉み、労ったつもりだったが、力が強すぎたのか「痛い!」と言われて、直ぐに中断した。

高台から見える景色に心が奪われて、清らかな気持ちになる。下や周りを見渡せば木々が生えていて、動物も出てきそうな雰囲気。

「ほら、おにぎり買っといた。起こしても起きないから適当に選んだけどな」

日下部君が車の中からコンビニの袋を取り出して、おにぎりとお茶を手渡してくれる。誰も周りには居ないし、広大な自然の中で二人きりで食べるおにぎりは格別に美味しかった。

「そうだ、日下部君、一緒に写真撮ろ!」

「またかよ……」

ブツブツ言いながらも要求に応じてくれる。この旅行中に何枚、一緒に撮っただろう。別れが来た時の為に本当は後々に残したくないから、一緒に撮らない方が良いのだろうけれど……日下部君との思い出は一生残しておきたい。他の誰かと結婚しても、一生独り身だったとしても、思い出は墓場まで持っていく覚悟だ。思い焦がれて、やっと一緒に過ごせている。そんな大切な思い出は、想いが叶わなかったとしても、一生涯の宝物にしたい。

日下部君に再会してしまった今、他の誰かを日下部君よりも好きになる人なんて現れないのだから───……
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