忘れられない約束
「ねぇ、あなたは覚えていますか?」

「ずっと一緒にいようね」と言った。

あの日の約束を・・・。


私は、藤崎(ふじさき)優里(ゆり)
親の転勤の為
8歳の頃この町に引っ越してきました。

引っ込み思案で、恥ずかしがりやの私は、転校先の学校で
なかなか馴染めず、友達も出来なくて、辛い毎日を過ごしていました。

そんなある日、休み時間に
私に話しかけてくれた女の子がいました。

言葉が聞き取りにくかったので
「何て言ってるの?」と
聞き返したら、ゆっくりと話してくれて、「一緒に遊ぼう」と言われたことがわかりました。

その女の子は、橋田ミナちゃんと言います。

ミナちゃんは、生まれつき難聴であることと
普通に喋られると聞き取りにくいから
ゆっくり喋ってくれると
聞き取りやすいと教えてくれました。

ミナちゃんと一緒に遊んでいると
同じクラスの女の子から
「ミナちゃんと遊ぶのやめた方がいいよ。だってその子、耳が難聴で何喋ってるのかわからないし、私が言うことも聞き取ってくれないから、みんな迷惑してるんだよ」と言いました。

私は、何でそんなことを言うのか理解出来なくて「何でそんなに、酷いこと言うの?ミナちゃん何も悪くないのに。何言ってるか、わからないなら、わかるまで何度も聞いたらいいし、ゆっくり喋ってと伝えたらいいじゃない。ミナちゃんが、聞こえにくそうだったら、声を大きめにして、ゆっくり喋ったらちゃんとミナちゃんに伝わるよ。何でわからないの?」と言って悲しくなり泣きました。

悪口言ってた子が
「私、悪くないもん、みんなが思ってること言っただけよ」と言って離れていきました。

私は悲しくて、家に帰って
今日あったことを母に話し
ミナちゃんが、なぜ
いじめられるのか聞きました。

「どうしてみんなは、難聴のミナちゃんのことをいじめるの?普通の子と違うからいじめるの?そんなのミナちゃんが悪い訳じゃないのに可哀想だよ。」

それを聞いた母は
「そうね、確かに普通の人と違う、障害を持ってるだけでいじめられている人は多いと思うわ。でもね、いじめをやめてとお願いしても無理な事があるの。じゃあどうすれば良いかってなるんだけど、優里(ゆり)がミナちゃんをいじめから守ってあげたいと思うのなら、そばにいて支えてあげたらどうかな?喜んでくれると思うわよ」と答えてくれました。

そうか、私がミナちゃんの、そばにいたら良いんだ。
「お母さんありがとう」

その後、ミナちゃんと仲良くなり友達になって、たくさんの日々を共に過ごし、小学校卒業前に

「これからも、ずっと一緒にいようね」と約束しました。

中学に入学してから、3年間別のクラスだったこともあり
ミナちゃんのいじめは、なくなることなく続いていました。

先生に何度も「いじめられているので、やめさせて下さい」と訴えましたが、いじめられる方にも問題があるのだろうと言われました。

問題って何?問題なんて何もない!
ミナちゃんは、生まれつき難聴ってだけで
みんなにいじめられているんだよ・・・。

いじめがある事を、みんな知っているのに、誰も何もしてくれない。
見て見ぬふりの人もいる。

私は、人間不信になりそうでした・・・。

中学を卒業し
高校は違う高校だったので、高校の友達といる事が自然と多くなり
ミナちゃんと、ほとんど会わなくなっていきました。


高校3年のある日
テレビで何気なく、夕方のニュースを見ていたら

〇〇高校の修学旅行先のホテルで火災があり女子生徒、橋田ミナさんが死亡と放送されました。

私は、頭が真っ白になり
同姓同名でありますようにと祈っていました。
ミナちゃんの家に電話をかけても繋がらず、安否がわからない状態で不安でたまりませんでした。

ですが、翌日の新聞に、顔写真が掲載されていて
ミナちゃん本人だと知り、号泣しました。

通夜もお葬式も親近者で済ませると言われて、最後に顔を見ることも、お別れすることも叶いませんでした・・・。

後で知った事ですが
高校でも入学してからずっと酷い
いじめにあっていたそうです。

私がミナちゃんと同じ高校に行かなかったから、そばにいなかった私が悪いんだと自分を責めて後悔しました。

ミナちゃん一緒にいれなくてごめんね、一人にしてごめんね。


あれから20年が経ち、私は今でも
「ずっと一緒にいようね」と
あの日した約束が忘れられません。

いいえ、きっと一生忘れないことでしょう。

あの日、あなたと交わした約束を・・・。
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