愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様

「最低か。まぁそうかもな。でもあいつが俺にしたことは、もっと最悪だけどな」

「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。あいつは俺の命令に従わなかった。動画を渡さないと殺すって言ったのに、そうしなかった。あいつは馬鹿だ。大馬鹿だ。動画を俺に渡せば幸せになれるとわかっていたのに、敢えてそうしなかった。自分の人生を、自分で棒に振った」

「……こっ、殺す? あいつは、死んだんですか……?」
 俺は零次の父親の腕を摑んで、震えながら言った。

「いや、今は生きてる。殺すつもりだけどな」

「息子なのに、ですか」
 零次の父親の言葉が信じられなくて、俺は思わずそう尋ねてしまった。
 ありえない。
 裏切ったから殺すなんて、考えが余りに馬鹿げている。まるで俺の父さんみたいだ。
 父さんはそういう復讐みたいなのじゃなくて、金目当てで俺を殺そうとしたから、零次の父親よりよっぽどタチが悪いけど。

「俺はアイツを息子だと思ったことはねぇ! 血縁関係があるだけの他人だと思ってる! だから殺すんだよ! あいつは道具だ、人じゃない。俺の所有物なんだよ! それなのにお前があいつをたぶらかして、不良品にしちまった」

「俺が、たぶらかした?」

「ああ、そうだよ。あいつはお前と仲良くなったから、俺の命令より、お前が自由になることを優先したんだよ。俺が祖父に動画を渡しても、お前が絶対に自由になる保証はない、ぶっちゃけ、借金がなくなったところで、お前が自由になるかは、あのクソ親次第だ。でも動画を警察に渡せば、あのクソ親が逮捕されて、お前は完全な自由を手に入れられる。だからあいつは俺の命令を拒否して、動画を警察に渡したんだ」

 つまりあいつは、自分で自分の首を絞めたのか? 
 俺を虐待から救うためだけに?

「馬鹿だよな、そんなことをしたら、俺に殺されるってわかっていたのに」

「……アンタに、零次は殺させません」
 絶対に殺させない。零次は必ず俺が守る。
「言ってろ。お前ごときが、アイツの自殺を止められるとは思えないけどな」
 零次の父親は覚めた口調で、とんでもないことを言った。
「じっ、自殺?」
「ああ。あいつはきっと、自殺しようとしている。あいつは俺に殺されるくらいなら、自殺をしようと考えるハズだ」
 俺は零次の父親の言葉を聞くや否や、大急ぎで江の島に向かった。
 
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