愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
「トイレに行け」
耳元で囁かれる。
俺は何も言わず、男子トイレまで足を進めた。
俺の後を追って、父さんがトイレの中に入ってくる。
父さんはトイレの鍵を閉めると、顔を歪ませて笑った。
「着いたらすぐ中に入れ」
「うっ!」
足を踏まれ、カップラーメンを持ってない方の手で、首に巻いているネクタイを引っ張られる。
喉が締めつけられて、うめき声が漏れた。
「このノロマが。後二十秒で本当に飯を抜かれるとこだったぞ?」
父さんはネクタイから手を離すと、ズボンのポケットからスマフォを取り出した。そして、ロックを解除したそれの画面を俺に見せた。スマフォはストップウォッチの画面になっていて、それは確かに四分四十秒で止まっていた。
……ノロマね。
俺をガレージに閉じ込めて、熱中症になる寸前まで身体を弱らせた奴がよく言う。
「飯は?」
父さんが持ってるカップラーメンを見ながら、俺は言った。
「ああ、そうだな。飯抜きはなしにしてやる。そんでこれも、後で食べさせてやるよ。ただし、今からやられることを全部声を上げないで耐えられたらな」
父さんは俺が着ているブレザーの袖の中に腕を入れると、やせぎすの俺の腕を力を込めて握った。
「……っ!」
腕にとんでもない圧がかかった。まるで、縄で腕を縛られたみたいだ。
腕に父さんの爪が突き刺さった。ブレザーの中にYシャツを着てたから皮が剥けはしなかったけど、それでもかなり痛い。
振りほどきたいのに、腕が痛くて振りほどけない。
俺は必死で唇を噛んで、声を出すのを堪えた。
「いい子だ、海里」
父さんが耳元で囁く。
「さあ海里、店を出よう」
足をどかして、父さんは妖艶に笑った。
父さんが言ったその言葉は、一見親が大切な子供に言う何気ない言葉だった。だがそれは俺からすれば、ゲームオーバーだという意味だった。
――ああ、また地獄が始まる。父さんに腕を引かれてトイレを出てコンビニを後にした俺は、そんなことを想った。
コンビニの近くにある人気のない路地裏で、父さんは足を止めた。
父さんはカップラーメンを地べたに置くと、まるで腫れ物を触ったかのように勢いよく俺の腕から手を離した。