愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様

「だって父親に殺されて死ぬくらいなら、自分で死んだ方がいいじゃん」
 零次が言った言葉は、絶望していた俺が想っていたことと、全く同じだった。
「それ言われたら確かに否定できねぇけどさ……俺は嫌だよ。お前が死んだら」
「はぁー、じゃあ一緒に逃げるか。海外でも。居場所バレそうになったら逃げるのをひたすら繰り返して、俺の父親から逃げまくるか」
 俺の頭を雑に撫でて、零次は笑った。

「でも、そんなことしたら」
「ああ。たぶんいつか見つかって、俺が親父に殺される」
 目じりを下げて、零次は途方に暮れたように顔を伏せる。

「そんなの嫌だよ。俺、零次とずっと一緒にいたいし」
「ああ、俺もずっと一緒にいたい。でも無理なんだよなぁ……」
 零次の涙が、俺の包帯に落ちる。
「……零次、無理じゃないかも」
「は?」
「零次の父親を、児童虐待の容疑で逮捕すればいいんだよ」
 俺の提案に、零次は作り笑いをして首を振る。
「……無理だよ。俺が殺されそうになってる動画を撮んのは。父親は絶対部下を連れてくる。俺達が二人でいるのを見越してな。だから絶対無理だ」
「じゃあどうすんだよ! 父親に殺されるのを黙って受け入れんのかっ!?」
 零次の胸ぐらを掴んで、俺は叫んだ。
「海里が自殺するのを許してくれないなら、そうするしかないかもな」
「ふざけんな! 人が死ぬのは散々止めたくせに、そんなこと言ってんじゃねぇよ!」
 そうするしかないなんて、言わないでほしかった。

 だって、俺の価値観を変えたのは零次だから。零次が虐待を耐えるしかないって想ってた俺に反抗することを教えてくれたから、俺は父親に反抗することができた。それなのに……。

 俺の自殺を止めてくれたのは零次なのに、零次自身は自殺を考えたり、父親に殺されたりするのにためらいがないのがすごい嫌だと思った。
 散々考えて出した結論でも、それだけは嫌だと思った。
 どうしようもない状況だからって何もかも諦めないでほしかった。俺の人生をどうしようもない状況から必死で救ってくれたくせに、そんな風に言わないでほしかった。

「ごめんな、海里。でももうダメだ。ゲームオーバーだ、俺達は」
 でも俺のそんな気持ちは、零次に届いていなかった。
「は? なんでだよ」
「お前が俺の場所を父親に教えたからだよ。せっかくクラッキングされてるスマフォを壊してから海に行ったのに、お前が俺の居場所を父さんに教えちまった。……父さん、きっとお前を尾行してる。もうすぐ、ここに着くよ」

「なっ!?」
 思わず言葉を失う。
 俺は唇を噛んだ。

 ――何かないのか。俺達二人とも助かる方法。

「海里、もういい。もう二人で生きようとしなくていい。全部俺の自業自得だから」
「嫌だ! 絶対嫌だ! お前がいない世界で生きるのなんて!」
 零次の胸ぐらをさらに強い力で握りしめて、俺は叫んだ。
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