愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様

「人のことわかったみたいに言ってんじゃねえよ!!」
 零次が俺の手を振り解いて、声を大にして叫ぶ。

 零次の声がデカすぎて、思わず足がすくんで、後ろに一歩下がる。

「お前にわかるのか? 毎朝足の痛みで目を覚ますのがどれだけ辛いか! 車の中で寝るのが、どれだけ苦痛か! わかんないだろ!! お腹が空いたら、自分の身体を傷つけて、その血を舐めて飢えを凌いでた奴の気持ちなんて!!」

 零次が自分の服の襟をつかんで、肩を俺に見せる。
 零次の肩には、爪で引っ掻いたような跡が何十個もあった。

「誰も助けてくれなかった。いや、助けを求めることすら、許されなかった。カーテン越しに見える窓の外には、いつだって誰かがいた。駐車場に停めてあった車のそばを、いつだって人が通っていた。でも人がいるからって助けを求めようとしたら、監視カメラを見てる親父かその部下に秒でバレてお仕置きをされる。俺が助けを求めた人は、俺がお仕置きを受けてる間に、そそくさと逃げるんだ! 世界は残酷なんだよ、吐き気がするくらい! そんな世界で、人でいられるわけないだろう?」

 開き直ったようにそう言って、零次は自嘲気味に笑った。

「なんで。なんでお前はずっと俺に相談しなかった! お前は俺が自分をちゃんと大切にできなくて自殺を選んだ時、必死で止めてくれたよな? その後も、俺が自分の気持ちを母さんにぶつけられるようにわざと母さんに会わせて、お前は俺が自分を大切にできるように散々手助けしてくれた! それなのに俺は、自分を大切にできてないお前を助けることもできなかった!!……確かに俺は、お前のそういう不可解な行動に戸惑ってばかりで、自分のことで精一杯だったかもしれない。それでも、相談をしないだけならまだしも、話すらしないのは絶対違うだろ!」

「だって俺を助けたら、海里死んじゃうだろ。俺があの父親を殺しでもしない限りは」

「それは可能性の話だろ! お前がもっと早く俺に話をしてたら、絶対そうなってなかった!!」

 零次の瞳から流れた涙が、俺の頬に落ちた。

「……そうだな。俺がお前に話をしてたら、海里の動画を警察に渡した後の作戦を二人でなんとか練って、親父を児童虐待の容疑で逮捕することができていたかもしれない」
< 151 / 158 >

この作品をシェア

pagetop