愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様

 ――ん?
 こいつ、走り方が変だ。両足を少し引きずるようにして走っている。怪我でもしているのだろうか?
 でも足を引きずってはいるけど、痛そうにしているわけでもないし、大した怪我ではないのか?

「お前、足怪我してんのか?」
「え? あーそうだけど、大したことないから平気! そんなことより、今は早く逃げないと!」
 阿古羅が走りながら言う。
 やっぱり大した怪我ではないらしい。
 俺は全速力で、阿古羅の後を追った。
 父さんは虐待がバレるのを恐れたのか、追ってこなかった。おかげで、俺達はすぐに近くの公園のトイレに駆け込むことができた。
 阿古羅はトイレに着くと、ぱっと俺の腕から手を離した。

 助かったのか?
 ほっとして力が抜けてしまい、俺は思わずトイレの床にしゃがみ込んだ。  
  
「大丈夫か?」
 阿古羅が俺に片手を差し出して、顔を不安そうに覗き込んでくる。

「うん。助かった。ありがとう」
 俺は阿古羅の目を見てから、その手を握って立ち上がった。

「ああ、助けられてよかった。俺は阿古羅零次だ。よろしく。確か隣のクラスの……井島海里だよな?」

 え?
「なんで俺の名前知ってるんだ? 会うの初めてなのに」
「女子から聞いた。井島海里っていう孤高の一匹狼の男子がいるって」

「……いやどんな噂だよそれ」
 思わず眉間に皺がよった。

「ハハ、確かに。ちょっと顔がいいからってよくわかんないこと言われるなんて、本当にたまったもんじゃないよな」
「顔がいい? 誰の」
「お前のだよ。女子はみんなそう言ってる。二重でくりくりした目が可愛い美少年なのに、つっけんどんなのがギャップがあっていいって」
「それは聞き間違いじゃないか?」 
 そんなこと言われたこともないし。
「俺のセフレの三人に一人が言ってるのにそんなことある訳ないだろ!」

「……セフレ」
 やばいな、こいつ。本当にチャラい。
「あ、今失礼なこと考えただろ!」
「考えてねえよ」
「いや絶対考えた!」
 阿古羅が急に大きな声を出したのにびっくりして、俺は思わず後ずさった。
「悪い、怖かったか?」
「……いや、大丈夫」

「いつもあんなことされてるのか?」
 首を傾げて阿古羅は言った。

「うん」
「そっか」
 俺が頷くと、阿古羅は急に片手を上に上げた。

 ――殴られる!
 目の前にいるのは父さんじゃなくて阿古羅なのにそう思った。
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