愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様

 俺は咄嗟に、左手で頭を隠した。
「え?」
 阿古羅は意味が分からないというような顔をして、手を下ろした。

 もしかして、俺の頭を撫でようとしたのか?

「あっ。ごっ、ごめん、俺……」
 慌てて手を下ろして頭を下げる。

「殴られると思ったのか?」
 阿古羅が神妙な面持ちで尋ねてくる。

「うっ、うん。本当に、ごめん」
「気にすんな。毎日あんな目に遭ってたら、そうなって当然だ。火傷、冷やそうぜ」
 頭を下げた俺に笑いかけてから、阿古羅はトイレの流し台まで、足を進める。
「うん」
 俺は阿古羅を傷つけたのが後ろめたくて、小さな声で頷いてから、阿古羅の後をついていった。

 トイレの入口の近くの流し台の前に隣同士で並んで、傷の手当をする。

「さっきはなんで俺が危ないのに気づいたんだ?」
 俺はポケットからハンカチを取り出すと、流し台の蛇口を回しながら尋ねた。
                  
「コンビニで飯買って教室で食べようと思って学校向かってたら、お前の悲鳴が聞こえて」
 阿古羅が肩に掛けているコンビニの袋を俺に見せてくる。
「工事中だったのに悲鳴が聞こえたのか?」
「ああ。すぐ近くにいたから」
「そっか。庇ってくれて本当にありがとう」
 俺はハンカチを濡らしながら、礼を言った。
「おう!」
 俺の言葉に頷くと、阿古羅は床に鞄とコンビニの袋を置いてから、ブレザーを脱いだ。

「あ、持つよ」
 蛇口の水を止めて、俺は言う。

「その行為はありがたいけど、断わるわ。人に親切にする前に、その首冷やせ」
「……わかった。あ、阿古羅これ使って。直に当てたら皮膚が剥がれちゃうかもしれないから」
 俺はポケットから二枚目のハンカチを取り出して、阿古羅に渡した。
 皮膚が剥がれるのを知ったのは中学三年生の時。太ももにライターを当てられて火傷をさせられて、ズボンを脱ごうとしたら、母さんに皮膚が剥がれたらどうするのって止められた。

「おっ、サンキュー。何でハンカチが二枚もあんだ?」
 ハンカチを受け取ってから、阿古羅は首を傾げる。

「……火傷はよくさせられるから」
 俺は阿古羅から目を逸らして、手に持っているハンカチを絞りながら答えた。

「……そうか。悪いな、言いにくいこと言わせちまって」
 阿古羅が床にブレザーを投げてから、申し訳なさそうに目尻を下げる。
「いや、大丈夫」
 俺は濡れたハンカチを鎖骨に当てながら、小さな声で言った。
< 17 / 158 >

この作品をシェア

pagetop