愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様

 ああ、そうだ。

 俺は父さんに反抗したいって想いを押し殺してただけじゃない、心の奥底にあった生きたいって想いすらも、押し殺してしまっていたんだ。
 だってそうしないと、欲が出てしまうから。逃げられないのに逃げたいと考えるようになってしまうから。そうならないために、いつも自分を押さえつけて、意志を殺して生きてきたんだ。そうやって、聞き分けのいい操り人形にならなきゃと思って生きてきたんだ。


 本当は死にたくないって、生きたいって思ってたのに。

「うっ、うっ……」
 涙がとめどなく溢れる。
 本当は、ずっと誰かに助けてもらいたかった。
 本当は、母さんにもっと大切にされたかった。
 本当は、母さんに『あんたが身代わりになって俺のために死ねよ‼』って叫んでやりたかった。
 この地獄から解放されたかった。
 本当は、死ぬのも父親から虐待を受けるのも嫌だった!
 言葉にならない声を発しながら、俺はただただ涙を流した。
 虐待でできた身体中の傷と心の痛みが涙に次々と変換される。それは拭っても拭ってもとまらなくて、気が付けば俺は赤ん坊のように声を上げて泣きじゃくっていた。


「自分を大切にしろ、海里」
 俺の涙を指で拭いながら、阿古羅はそう天使のような優しい声色で囁いた。

「自分を、大切に……?」
 涙を拭いながら、阿古羅の言葉を繰り返す。

「ああ。ただやられるんじゃなくて、危ないと思ったら逃げたり、時にはやり返したりしろ。そうやってちゃんと自分を守れ。あのクソ親の横暴さを受け入れるな。横暴なのが当たり前だと思ったら終わりだと思え。殴られたらちゃんと反抗しろ。治療費を払ってもらえないのも受け入れようとするな」

 思わず目を見開く。
 そんな風に言われたこと一度もなかった。

「……受け入れたら駄目なのか?」

「ダメに決まってんだろ! お前、何もかも父親の言う通りにしてきただろ! 最低限しか虐待を受けないために、自分の想いとか全部抑え込んで、自分のこととことん蔑ろにしてきたんだろ! そうしてきたから、さっき死んでもいいとか言ったんだろうが‼ そんな生き方間違ってんだよ!」                        
 阿古羅は俺を睨みつけた。
「……だって俺なんか、誰にも大切にされてないし」
< 21 / 158 >

この作品をシェア

pagetop