愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
ああ、そうだ。
俺は父さんに反抗したいって想いを押し殺してただけじゃない、心の奥底にあった生きたいって想いすらも、押し殺してしまっていたんだ。
だってそうしないと、欲が出てしまうから。逃げられないのに逃げたいと考えるようになってしまうから。そうならないために、いつも自分を押さえつけて、意志を殺して生きてきたんだ。そうやって、聞き分けのいい操り人形にならなきゃと思って生きてきたんだ。
本当は死にたくないって、生きたいって思ってたのに。
「うっ、うっ……」
涙がとめどなく溢れる。
本当は、ずっと誰かに助けてもらいたかった。
本当は、母さんにもっと大切にされたかった。
本当は、母さんに『あんたが身代わりになって俺のために死ねよ‼』って叫んでやりたかった。
この地獄から解放されたかった。
本当は、死ぬのも父親から虐待を受けるのも嫌だった!
言葉にならない声を発しながら、俺はただただ涙を流した。
虐待でできた身体中の傷と心の痛みが涙に次々と変換される。それは拭っても拭ってもとまらなくて、気が付けば俺は赤ん坊のように声を上げて泣きじゃくっていた。
「自分を大切にしろ、海里」
俺の涙を指で拭いながら、阿古羅はそう天使のような優しい声色で囁いた。
「自分を、大切に……?」
涙を拭いながら、阿古羅の言葉を繰り返す。
「ああ。ただやられるんじゃなくて、危ないと思ったら逃げたり、時にはやり返したりしろ。そうやってちゃんと自分を守れ。あのクソ親の横暴さを受け入れるな。横暴なのが当たり前だと思ったら終わりだと思え。殴られたらちゃんと反抗しろ。治療費を払ってもらえないのも受け入れようとするな」
思わず目を見開く。
そんな風に言われたこと一度もなかった。
「……受け入れたら駄目なのか?」
「ダメに決まってんだろ! お前、何もかも父親の言う通りにしてきただろ! 最低限しか虐待を受けないために、自分の想いとか全部抑え込んで、自分のこととことん蔑ろにしてきたんだろ! そうしてきたから、さっき死んでもいいとか言ったんだろうが‼ そんな生き方間違ってんだよ!」
阿古羅は俺を睨みつけた。
「……だって俺なんか、誰にも大切にされてないし」