愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
「ああ、そうだったんだろうな今までは。でも、今は違う!」
声が枯れる勢いで阿古羅は叫んだ。
「え」
阿古羅の声の大きさに震えていたら、両手をぎゅうっと握られた。
「俺はお前を大切にする。絶対だ。約束する。だから海里、危ないと思ったらちゃんと逃げろ。生きたいなら、ちゃんと生きようとしろ。どうしても耐えられなくなったら、俺が助けに行ってやるから」
目を見開く。
阿古羅が、助けに……?
誰かにそんな風に言われたのなんて、初めてだった。
父さんはいつも俺に暴言ばっか言ってきて、母さんはいつだってそんな父さんから俺を守ろうとはしてくれなかった。
それなのに、なんで阿古羅はそんな風に言ってくれるんだ?
「何で阿古羅は、俺をそんな大事にしようとしてくれんの?」
大切に、大事に丁寧に扱われたことなんて一度もなくて。ただただ俺は戸惑った。
「……知ってるから。知り合いが死ぬときに味わう絶望を」
俺の両手から手を離して、阿古羅は言う。
「は?」
予想外の言葉に驚いて、俺は息を呑んだ。
こいつもなにかあったってことか?
阿古羅は戸惑う俺を見て、悲しそうな瞳をして笑った。その瞳は暗くて、闇がある感じがした。
――コイツは、一体何を抱えているんだ?
「とにかく約束しろ。ちゃんと自分のこと守るって。な?」
阿古羅は戸惑っている俺を笑った顔で見ながら、右手の小指を前に出した。
「何?」
「指切り。したことくらいあるだろ」
「わかった」
俺はしぶしぶ、左手の小指を阿古羅の小指と絡めた。
「ゆびきりげんまん。嘘ついたら針千本のーます。指切った!」
さっきの暗い表情とは全く違う顔で楽しそうに笑いながら、阿古羅は言った。
ガキっぽい。
「俺はなにかあったら必ずお前を守る。だから、お前も命を粗末にするなよ」
阿古羅は笑って、小指を離した。
俺は何も言わず、ただ頷いた。
読めない男だ。
常時元気なのかと思えば、突然暗い顔をする。
それに今まで話したこともない俺を「必ず守る」なんて迷いなく言い切るなんて、とても妙だ。
それでも父さんや母さんよりは、よっぽど信用できると思った。
阿古羅はその後、ハンカチを再度水に濡らすと、蛇口の水を止めてハンカチを絞り、それを火傷したとこに当てた。