わたしが最愛の薔薇になるまで
「見るのは好きです。けれど、詳しくはございません」
「好きなだけで充分ですよ。好意的な感情は万事の入り口となりますから。詳しくなるには学が必要ですが、好きかどうかは子どもでも分かる。そういった純粋な精神性こそ、芸術を評価するために大切なのです。お時間がありましたら、いくつかご説明しましょう」

 紳士は親切に、展示されていた絵画が描かれた背景について教えてくれた。
 なかには、革命や死を予兆するような劇的な場面を描いたものもあって、深紅色の血を見た私は目眩を覚えた。

「おっと」

 紳士の広い胸に抱き止められなければ、床に倒れていただろう。

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