わたしが最愛の薔薇になるまで
◆◆◆◆◆
 
 
 私は百貨店を訪れていた。外商部の男を呼びつけてどうこうするより、自分から動いてお見合い相手について聞き出した方が早いと思ったのだ。

 担当の男を呼ぶと、急な用事で表に出ているという。一、二時間ほどで戻ると言うので、絵画展が開かれていた催事場へと向かった。

 西洋画を眺めていくと「お好きですか」と声を掛けられた。
 声の主はモダンなスーツを着た紳士だった。

 首元に結んだクラヴァットと白波たつ海のようにうねる髪が印象的だったが、顔立ちは見られなかった。私は古い癖で、視線が合わないように顔をそむける。

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