わたしが最愛の薔薇になるまで
 口を出したのは兄の蕾(らい)だ。咲と同じ色素の薄い髪色をしている彼は、私の真横の手おきに腰かけて、ボードレールの詩集を読んでいた。

 かたくなに視線を上げないことから分かる通り、蕾は己のペースを崩されるのを極端にきらう。
 他人に触れたがる咲とは正反対だが、喧嘩をしたことは一度もない。

 蕾と咲は、好きなものも嫌いなものも分け合って、双子らしく生きていた。
 自分に嘘を吐かず、のびのびと生きてもらいたかった私の教育は、ひとまず成功といえる。そろそろ親代わりもお役御免だ。

「気が変わったのよ。近く顔合わせのお食事会を催すから、二人とも出席してちょうだいね」

 柱時計がボーンボーンと十回鳴る。そろそろ眠る支度をしなくては。

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