わたしが最愛の薔薇になるまで

後編

 私は、早朝にもかかわらず葉室邸を訪れていた。
 応接間で、出された紅茶に手も付けずに座っていると、昨晩のことが思い起こされる。

 蕾と咲は、私を幸せにしたいと言った。結婚はせず、私にも結婚させず、三人だけの世界で生きようとしていた。

「私は、そんな風に愛されたかったわけではないのに……」
「薔子さん、お待たせしました」

 執事が開けた扉から、葉室が入ってきた。
 急な来訪を聞いて、慌ただしく支度をしたのだろう。シャツの袖はくしゃりと皺が寄っているし、クラヴァットは結び目が曲がっている。

 常識のない時間に訪問してきた私を怒ってもいいのに、「お顔色が悪いですね。どうされました」と心配してくれた。

 心優しいこの人なら、この胸にわだかまる苦しみを分かってくれる。
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