七夕の夜、二人で見上げた星空
「早瀬さん……」
隣に立っていた瀬戸くんが、沈黙を破って話し始めた。
「俺の母親と、早瀬の父親は結婚するんだ。アイツと俺は、兄と妹の関係になっちまう」
「そうだったんですか……」
「一年前から顔見知りで、俺は高校一年、アイツは中学三年だった」
半年後ぐらいから何度も交際を申し込まれてたけど、両親から結婚したい意志を聞かされたからムリだと断ってたみたい。
それでも早瀬さんは頑張った。でも、結果は……
すべてを聞かされて、心が切なくなる。
胸をぎゅっと締め付けられる思いで、言葉がでなかった。
「でも、アイツはいい奴なんだぜ!俺と同じ中学で同級生の宇佐が困ってるから、助けてあげてほしいって言ってきたんだ。感謝しろよ、俺じゃなくアイツにな……」
「そうでしたか……」
あふれ出る涙が、私の頬を伝って流れ落ちる。
早瀬さんの助けがなかったら、瀬戸くんも動かなかった。
もしかしたら、一年前と同じように退学してたかもしれない……
早瀬さんは恋のライバルなんかじゃない、私にとって女神さまだよ。
「宇佐、顔を上げろ!涙を拭え!」
花火の煙が消えて、きれいな夜空が広がってる。
胸の中がモヤモヤしていた私は、おおきな声で叫んでしまう。
「好きだぁぁぁーっ!」
小首を傾げた瀬戸くんが、不思議顔で言ってくる。
「たこ焼きか?」
鈍感な瀬戸くんに、私の思いが届くのは先の話だろう。
「おっ、すごく綺麗な天の川が見えるぜ!」
「えっ、本当ですか!」
学校指定のジャージ姿で、私たちは顔を上げる。
天の川で織り姫と彦星が出会う日に、瀬戸くんと寄り添って話ができて幸せだ。
……もうすぐ梅雨が開けて、本格的な夏がやってくる。
七夕の夜、二人で見上げた星空
そのすべてが、私の思い出になった……
~fin~


