私の婚約者には好きな人がいる
おかしなことをしないように見張り番のように別荘にいつもいて、私を逃がしてはくれなかった。

「なにか召し上がりたいものはございませんか」

「帰してくれるまで、なにも食べないわ」

惟月さんはどうしているだろう。
兄や父に離婚をするよう言われて、承諾したら?
面倒な相手だと思われて、捨てられたら?
嫌な考えを打ち消すことができずにいた。
信じるべきなんだろうけれど。
頭がズキズキと痛んだ。

「惟月さん…」

泣き出しそうになったけれど、泣きたくはなかった。
泣いてしまえば、負けてしまうような気がして悔しかったから。
視線を落とした先に婚約指輪が目に入った。

「そばにいるって約束したのに―――」

こんな簡単に引き離されるなんて。
ここから、なんとしてでも、逃げ出して、惟月さんに連絡するしかない。
静代さんだって、ずっと起きているわけにはいかないのだから。
何か方法があるはず。
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