私の婚約者には好きな人がいる
まるで、子供のイタズラを笑うように。

「可愛いじゃない。ね、惟月。私が好きなら、待っていてよ」

「無理だ」

「そんなことないわ。惟月は待っててくれる」

中井さんは腕をからませ、体を抱きしめたけど、惟月さんはそれを乱暴に突き放した。
惟月さんが怒っている―――?

「捨てるなら、きっぱりと捨てていけ。中途半端な関係でいたくない」

本気で惟月さんは言っているのに中井さんは笑っていた。

「それじゃ、私が海外支店に行ったら別れるっていうのはどう?私が海外支店に行かなかったら、惟月と結婚するわ」

―――結婚。
惟月さんはなんて答えるのだろう。
そこまで聞くのが精一杯で気付いたら、コピー機の前に逃げ帰っていた。
他に人がいなくて良かった。
情けなくて、悲しくて、涙がこぼれた。
惟月さんには好きな人がいたのに。
どうして、婚約してしまったのだろうか。
私は愛し合う二人の仲を邪魔するだけの存在だった―――
< 27 / 253 >

この作品をシェア

pagetop