私の婚約者には好きな人がいる
にっこりと微笑んでいるけれど、恭士お兄様の目は笑っていない。

「咲妃。一人でこの仕事を?」

山積みの書類にぽんっと手をのせて言った。
周りが息をのむのがわかった。

「ち、違います!閑井さんと二人でしていました!」

慌てて閑井さんを連れてきた。
閑井さんは顔を赤くし、慌てていた。

「なるほど。閑井君。妹が世話になったようで、ありがとう」

「ひえっ!い、いえっ」

手を差し出されただけで、閑井さんは怯えて、私の後ろに隠れた。

「清永社長。それで惟月は?」

「呼んでこい!早く!」

「いますよ。なにか用ですか?恭士さん」

二人がにらみ合うと、重い空気に包まれた。

「君から見て咲妃の働きぶりはどうかな?」

「会社は遊びに来る場所ではありません。社会勉強なら高辻の会社でやればよかったのでは?」

「そうですよね。ごめんなさい。私、もう―――」

言いかけた瞬間、閑井さんがずいっと前に出た。
< 32 / 253 >

この作品をシェア

pagetop