私の婚約者には好きな人がいる
土曜日
約束の土曜日、二人で出かける場所に選んだのは動物園だった。
天気がいい週末。
動物園は親子連れで賑わっていた。
男の人と初デートだけど、惟月さんはもしかすると義務的なものかもしれないから、なるべく意識せず、『デート』という言葉を頭から追い払った。

「晴れて良かったですね」

何気ない会話を心がけよう……そう決めて。

「ああ。動物園は幼稚園以来かもしれないな」

「私もそうです。静代さんに連れて行ってもらったのをうっすら覚えているくらいで」

「静代さんに?」

「ええ。静代さんは私やお兄様にとっては祖母のような存在なんです。小さい時から面倒をみてもらっていたせいか、恭士(きょうじ)お兄様も静代さんには頭があがりませんの」

惟月(いつき)さんは笑った。

「確かに。恭士さんは静代さんの前では毒をぬかれたようになっていたな」

「そうでしょう」

「恭士さんにも意外な弱点があるんだな」

「え?」

「同じ高校の先輩だったからね。恭士さんは優秀で有名で誰も敵わなかったな」

優秀なのは知っていた。
学生の頃から、父は会社への出入りを許していたし、大学を卒業する前から父と対等に話していた。
その姿をうらやましくも思ったけど、そんなコンプレックスを感じさせることがないくらいお兄様は私のことを気にかけてくれて、父よりも父らしい存在だった。

咲妃(さき)さん」
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